リポート「終活」が国家的な課題へ
- masahiko fukuda
- 6月21日
- 読了時間: 5分
シニアの間にすっかり定着した「終活」。国家レベルの課題に格上げされ、新たな段階に入ったと言うべきでしょうか。6月の国会で、成年後見制度の見直しと「デジタル遺言」を創設する改正民法、身寄りのない高齢者の包括支援を盛り込んだ改正社会福祉法などが相次いで成立しました。民間の動きから始まった終活に、市町村などが加わり、今回は国が後押しする形を印象付けました。これまでの流れを大づかみに追ってみましょう。
1990年代に葬送の多様化の動き
終活という言葉が流行する以前の1990年代、民間の発案で現在のエンディングノートに相当するノートが作られるようになりました。1991(平成3)年には葬送の自由をすすめる会(東京)が海洋散骨を実施、1999(平成11)年には岩手県一関市の祥雲寺が樹木葬墓地を開設するなど、葬送の多様化の動きが始まりました。
道内では、札幌で女性が運営する「葬送を考える市民の会」が1997(平成9)年に活動を開始し、翌年任意団体として設立。模擬葬開催や、手づくりの「旅立ちの衣装」、旅立ちノート(エンディングノート)作成など新たな葬送文化を発信。現在は認定NPO法人として、札幌市内の霊園に独自の共同墓を持つなどの活動を続けています。
週刊誌の連載から広まった
終活という言葉は、週刊朝日(現在は休刊)の2009(平成21)年の連載「現代終活事情」を機に、広まったと言われています。手元に、この連載を翌年に再構成し著名人のインタビューなどを加えた本があります。タイトルは「2010終活マニュアル わたしの葬式 自分のお墓」。つまり、当時のメインテーマは、お葬式とお墓だったということがわかります。そして、同書では終活を「終わりの活動の略。人生のエンディングを自分らしく迎えること。また、その実現を生前から考え、準備すること」と定義しています。

終活ビジネスが活況
ブームに火が付いた終活は流行語にもなりました。遺品・生前整理業、不動産業、金融機関、法律や医療の関係者、さらには高齢者の身元保証や死後事務を有料で請け負う団体(高齢者等終身サポート事業者)など、さまざまな業界、専門家が関わるようになっていきました。全国各地で入棺体験、遺影写真撮影などを目玉にした終活フェアや、終活に関する各種セミナーが開かれるなど活況を呈します。
こうした中で、終活ビジネスに警鐘を鳴らしたのが、2016(平成28)年。高齢者の身元保証や死後事務を扱ってきた公益財団法人「日本ライフ協会」の経営破綻でした。これは、終活ビジネスに公的機関の関与を促すきっかけとなり、内閣府や関係省庁は後年、高齢者等終身サポート事業者のガイドラインを作成しました。
市町村や社協、郵便局も参入
その一方で、2010年代の半ばごろから、終活の分野を担う柱の一つとなっていったのが、市町村や各地の社会福祉協議会です。
死後に財産、不動産などの記録、連絡先などの情報を残すため、自治体や社協が独自のエンディングノートを作り、住民に配布することが全国的に広まりました。
道内でも、十勝地方の本別町社会福祉協議会が2017(平成29)年から先駆的に死後事務に取り組みました。公的機関で有名なのは神奈川県横須賀市で、身寄りのない高齢者を対象に、葬儀社と連携し死後の火葬、納骨などのサポートする事業を2015(平成27)年から始めています。このように、公的機関の取り組みは、社会のセーフティーネットの意味あいの強いものでした。
市町村などが、個別の活動を展開する一方で、事業者紹介など終活のサポート事業のネット網を張り巡らせたのが郵便局です。北海道内の各局は2020(令和2)年から始め、2024(令和6)年からは「郵便局の終活日和」として全国展開しています。民間事業者への橋渡しと、全国津々浦々にある郵便局の窓口で対応できる社会のセーフティーネットとしての側面も持ち合わせた試みです。

本格化した国の動き
さて、国の動きです。国の関与といえば厚生労働省が2018年(平成30年)に打ち出した「人生会議」が有名です。人生会議とは、自分の希望する終末期の医療を受けるために、家族や医療関係者らと話し合っておくアドバンス・ケア・プランイング(ACP)の愛称です。近年では国土交通省が空き家問題に対処するため「住まいのエンディングノート」、法務省が相続登記の推進のためエンディングノートを作成し、普及を図っています。
そして今回、国会で改正法が成立した内容を簡単にまとめると以下のようになります。
① 身寄りのない高齢者の公的支援…金銭管理など日常生活、入退院の支援、葬儀など死後事務を新たな「社会福祉事業」として制度化。都道府県の社会福祉協議会に取り組みを義務付ける
② 成年後見制度の見直し…判断能力が低下した場合などに、サポートする後見人の「終身制」を廃止。現行の「後見」「保佐」「補助」の3類型を「補助」に一元化
③ デジタル遺言(保管証書遺言)の創設…パソコンやスマートフォンで遺言を作成し、法務局にオンラインで提出できる新しい方式
以上の通りですが、終活をする立場から見ると、身寄りのない高齢者支援は終活のセーフティーネット拡大のための制度です。成年後見制度の改正とデジタル遺言は、終活を円滑に進めるための制度改善と、見なすこともできそうです。
今は大きな転換期
これまで終活の動きに関しては「息の長いブームが続いている」と説明してきたのですが、もう実態に合いません。今後は民間サービス、公的機関のセーフティーネットが重層的に広がって「社会のインフラ」の性格を強めていきそうです。
一方、個人の生き方に対する影響は別のリポートやコラムに詳細を譲りますが、終活に携わる人々の間では、エンディングノートを人生の計画書として活用するなど、「終活は人生を楽しく、豊かに生きるためのもの」と再定義する主張も目立つようになりました。
終活が盛んになった時代はおおむね、バブル崩壊以降の経済の長期低迷期と重なります。ただ国内経済は、2020年代半ばになって、物価と金利上昇、株価の高騰で歴史的な節目を迎えています。自分らしいエンディングの追求から始まった終活もまた、大きなターニングポイント(転換期)を迎えているようです。
参考「2010 終活マニュアル わたしの葬式 自分のお墓」(朝日新聞出版)
「老後ひとり難民」 沢村香苗(幻冬舎新書)
「女たちのお葬式」 葬送を考える市民の会(太田出版)
「終活 1年目の教科書」 黒田尚子(アスコム)
(2026年6月)



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