コラム 「下り坂を歩く」
更新日:9月23日
7月に直木賞を受賞した小樽市出身の作家、朝倉かすみさん。近作に、故郷小樽を舞台に読書サークルの高齢者たちを描いた「よむよむかたる」という小説があります。今回の受賞作ではありませんが、2024年下期の直木賞にノミネートされました。
サークルの名は「坂の途中で本を読む会」。活動拠点は、坂の途中にある古民家を改造した喫茶店です。この坂の設定は住吉神社前~入船十字街。ローカルな地名で恐縮ながら、実は私の住まいに近く、日々の散歩コースなので、愛着のある作品です。

(写真は、小樽市・住吉神社前から入船十字街方向の光景)
後期高齢者が緩やかなつながり
会の最高齢は92歳、最年少は78歳、後の4人は80代。つまり全員が後期高齢者。うち夫婦が1組で、ほかは、配偶者はいない設定です。坂は坂でも、人生の下り坂を歩んでいる人々の物語なのです。
この会は月に一度の例会を開いていたのですが、コロナ禍でしばらく中断の後、活動を再開。20周年記念誌を発行していくことで、ストーリーが展開していきます。みんな老いや病気を抱え、やがて訪れるであろう死も視界に入れつつも、サークルの活動が生きがいになり、心豊かに日々を送る様子が伝わります。高齢者の孤独が問題になる現代。家族とは違う社会との緩やかなつながりの大切さを教えてくれます。
この小説の主人公たちは後期高齢者ですが、小説の主人公の年齢は、その時代の人口構成を反映しているのでしょうか。高齢者が少なかった戦後しばらく。若い世代を主人公にした作品を思い出してください。例えば「青い山脈」「陽のあたる坂道」(石坂洋次郎)や、「キューポラのある街」(早船ちよ)。いずれも若い世代。つまり人生の上り坂を歩む人々の物語です。
しかし、高齢化が進む近年は、内館牧子さんの「すぐ死ぬんだから」「今度生まれたら」「老害の人」をはじめ、朝倉さんの「よむよむかたる」のように、下り坂を歩む高齢者を主人公にした小説が盛んに創作されるようになりました。
人生の下り坂も悪くない
さて、坂のまち小樽。散歩していると、いろいろ気づくことがあります。上り坂は、息が切れそうになって足を進めるのが精いっぱい。下り坂になると歩みも楽になり、視界も広がるのを実感します。
これ、人生にちょっと似ています。若い頃は、上り坂を上がるので精一杯。周りを見る余裕はありませんでした。しかし、時がたち、下り坂を歩くようになった今。さまざまな人生模様が少しずつ見えてきたように感じます。例えば、学校の成績、職業上の肩書、資産が人の価値のすべてではないと実感するように。少々くたびれてきましたが、自由な時間もあるし。人生の下り坂って、まあ、いいこともある。本当にそう思います。
ただし、危ないのは、特殊詐欺、認知機能低下、運転ミス…。おっと。坂道は転びやすい。用心しつつ、ゆとりを持って人生の下り坂を歩くことにします。
(2026年9月)



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